Natural History Illustration – 博物画

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私は休日のほとんどの時間を過ごしているこの部屋があまり好きではない。地味な白い壁紙にのっぺりとした既製の家具の取り合わせを眺めているとうんざりする。それ以外にも平凡なデザインの照明器具に、ひどい作りの窓枠。もう何年も住んでいるというのに偽物のフローリングの床からは一度として暖かみを感じたことがない。部屋の掃除を終えて、すっかりくたびれたソファに腰を下ろすと、ひどい虚無感にとらわれることがある。

そんな風にいたたまれない気持ちになったとき、私はこの世界からの逃避を試みるみたいに無心になって外国のインテリア雑誌のページをめくる。そこでは、開放的な窓が横一面に並び穏やかな午後の日差しが差し込む観葉植物の楽園みたいな部屋やミッドセンチュリーの機能的で美しいフォルムの家具に囲まれたモダンな空間が当たり前のように存在している。その生活感のいっさい感じられない世界は雑誌の束がそこここで山積みになっている私の部屋とは大違いで、まさに夢を体現したものにちかい。そんな部屋に一度は住んでみたいなと思うけど、外国に移住する勇気も大胆なリフォームに取りかかることもできない内気な私はその世界を前にしてただ海の底のように深いため息をつくしかない。

 

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もちろん、どこかに移り住んだからといって自分の住む世界をまったく変えてしまうことなんてできやしないことはよく理解している。夢のような世界はあくまで理想であって、シンデレラのようにガラスの靴がぴたりと合って理想のお城暮らしができるようになったって、身の丈があっていなければそれはとても窮屈な生活になるだけだろう。理想と現実はちがう。

しかしながら、どこかでそんな理想の世界への憧れを捨てきれない私は何かを変えたいと思う。すべてをすっかり変えてしまうことはできなくとも、何かひとつくらい夢のなかのものをこちらの世界に持ってくることならばそう難しくないような気がする。

そこで私はインテリア雑誌をぱらぱらとめくり、気に入った何枚かの写真のなかに共通して登場する額装された博物画を作ることにした。それなら私にも作れそうな気がしたからだ。博物画と一口にいっても植物や昆虫、動物に鉱石などと様々な種類があるけれど、私はうつくしい鳥の博物画がいいと思った。鳥は自由の象徴のように思えたから。そして私はオーデュボンの『アメリカの鳥』のなかからすてきな図案の博物画を一枚選び、以前近所のフリーマーケットで偶然見つけた古い時代の木製の額に額装を施すことにした。

作品が出来上がると私はそれを部屋の味気ない白い壁に飾った。そしてまたくたびれたソファに腰をかけ、休日の残りを過ごした。もちろん部屋は前と同じように退屈な世界で、虚無感は依然としてそこここに感じられるけれど、同時にそこに小さな変化が起きていることに私は気づく。それはとても小さな変化だけど、その変化を私は心から喜ぶ。そして少しくらいはこのささやかな世界のことを好きになれるかもしれないなと思った。


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