Encadreur N°9 – LE Café à Paris パリのカフェ

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カフェテリアに行くと私はいつも奥の席に座ってまわりの人を観察する。それが趣味みたいなものだったりする。

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映画に出てくるスパイか何かみたいに新聞を広げてあたりを観察したりする。あるいは村上春樹さんの小説『スプートニクの恋人』のなかで主人公がギリシャのカフェテリアでアイスティーを頼みながらぼんやりと人を待つみたいに時間を潰すのも好き。探偵になった気分で、とにかくカフェテリアで周囲の人々が入れ替わるのをそっと眺めながら、テーブルの上のコーヒーがすっかり冷めてしまうくらい長居するのが好きなのだ。

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これまでずいぶん世界のいろんな都市にあるカ フェテリアに行ったことがあるけれど、個人的なランキングをつけるとしたら上位に来るのはパリかベルギーのカフェ。とくにパリのカフェはどこにでもあるし、生活の場として地域に密着しているから、旅行者としてそのなかに入っていくとそこで暮らす人々の生活を垣間見ることができてとてもたのしい。何もル・フーケやカフェ・ド・フロールみたいな老舗の有名店に行く必要はなくて(そういうところはすでに観光地化してしまっている)、滞在するホテルの最寄駅の周辺にある地味なカフェテリアで充分。そんな店の奥の席で長いことテーブルを占領していると、ぴしっとした仕事着に身を包んだギャルソンたちがちょっと嫌な顔をすることもあるけれど、さっぱりとした味わいのモナコ(ビールのカクテル)と野菜たっぷりのサラダを注文したら彼らだっていくぶん機嫌をよくする。時にはチップを弾む必要もあるかもしれない。それもこれも人間観察業のためのささやかな経費みたいなもの。

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その日の私はパリのトロカデロ広場から少し奥に入った通りにあるカフェテリアで退屈な一日を過ごした。退屈だけど、とても充実した一日。大通りから少し離れると大都市特有の雑踏や賑わいが煙のように消えて、まるでしんとした森のなかに足を踏み入れたみたいな静寂に包まれる。観光名所をのぞいたパリの休日はとても静かだ。私の足を踏み入れたそのカフェは有名店みたいにきらびやかな造りではないけれど、それでもリュック・ベッソン監督の映画に出てくる程度には小洒落たカフェテリアで「これならまあ全然悪くないな」と思える感じだった。まあパリによくあるステレオタイプ的なカフェといってもいいと思う。テーブルの上にはペリエの灰皿があって、その横に使い古された赤いプラスティックの蓋の塩・胡椒入れがなかよく並んでいる。パリのいたるところにあるこんな感じのカフェには地域の常連の客たちが毎日集う。それはどこかだれかの家に転がり込んだみたいなアットホームな空気さえ感じられるほど。

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その日私の滞在していたあいだにも何人もの人たちがカフェを訪れた。カウンターで新聞片手にゆで卵をつまみながらエスプレッソを飲む男。六歳くらいの小さな男の子とその祖父の組み合わせ。男の子は彼自身の背丈ほどある大きな犬を連れていて最初はちょっとびっくりしたけれど、とてもおとなしい犬でどこかほのぼのとした感じさえあった。それから入り口のタバコ売り場でマルボロを買っていく客たち。あるいはロトくじや馬券を買うために訪れる人たち。外のテラス席ではかわいらしいダックスフンドを連れたマダムが気前よくシャンパンのグラスを空けていた。私はそんな風にカフェに集 う人々の姿をぼんやりと眺めながら、一口サイズに切り分けたクロックマダムの味を口のなかで確かめつつ、いつの日か彼らのようなカフェの住人になることができないものかという思いにしばらく耽っていたのでした。

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2016年07月08日 | Posted in Encadreur N°9 | | No Comments » 

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