Encadreur N°9 – bon voyage

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本号のアンカードラーのテーマは「ボン・ボヤージュ(よい旅を)」。世界をめぐってみたいと思います。

旅行ということばを聞くと何を思い浮かべるでしょうか?これまで赴いたことのある都市、それともインターネットやテレビでしか見たことのない雄大な自然の景色でしょうか。あるいは見知らぬ国の駅のホームで電車に乗り過ごして途方にくれた体験なんかかもしれません。

個人的に旅の定義を定めるとしたら”知らない世界”に赴くことではないだろうかと思います。たとえば同じ距離を車や飛行機で移動したとしても、故郷の田舎に帰ったり、仕事で出張したりすることをあまり”旅”とは呼びませんよね。でも、たとえ隣町でもそこが知らない場所なら立派な小旅行になりえる気がするのです。そんな”知らない世界”に一歩足を踏み入れると、その見たことのない景色に目を奪われる一方、まわりのことはわからないことだらけで、ときには拠り所にしている常識が通用しなかったりして、トラブルに巻き込まれたりします。だからこそ、人はこれから旅行に出る旅人に幸運を祈るようにボン・ボヤージュとことばをかけたくなるのかもしれません。

さて本号の主題である「額装」と「旅行」このふたつに共通する点があるとしたら、それはだいたいの場合において途中でトラブルを抱えることではないかなと思います。村上春樹さんが旅行記のなかで「旅先で何もかもがうまく行ったら、それは旅行じゃない。」と書かれていますが、額装にもそういうところがあって「額装中に何もかもがうまくいったら、それは額装じゃない」と言い換えてもよさそうな部分が少なからずあったりします。設計図どおりに作ってもうまくはまらなかったり、水分を含むことで予想外に紙が伸び縮みしてしまったり、ボンドがうまくつかなかったり、etc…etc…はじめて作る作品ならなおさらです。でもそうしたちょっとした困難に直面したときうまく知恵を出して乗り越えることで、思いがけなく面白い作品が生まれたりすることもあります。そうした感覚が「額装」と「旅行」に共通することなんじゃないかなと思ったりするのです。

本号ではそんな感じで近しいところのありそうな「旅行」と「額装」の組み合わせをいろいろ考えてみたいと思います。まずニューヨークの地図をイメージしたカードの額装 (new york city map)、それからロンドンのモティーフをシンプルに額装する(london calling)と額装と和の文化の組み合わせの考察(japonism)。裏面では箱型の技法、ボワッタージュの説明(technique)、そしてドキュモンの紹介(document hunter)。最後にパリのカフェの額装(avant//apres)で締めくくります。

ちょっと話はかわりますが、フランス人の作家ジューヌ・ヴェルヌの作品『80日間世界一周』の登場人物のひとり執事のパッスパルトゥは額装用語の”passe-partout”と同じことばだったりします。(前者の意味はおそらく合鍵の意味、主人公ジュリアス・フォッグを助ける執事として”何にでも合う”意味としてつけたのだと思います。後者の額装では台紙の意味として使われています)ことばそのものの意味はちがいますが、こんなところにも旅と額装には共通項があったりします。

ではみなさまどうかよい旅を。


2016年06月03日 | Posted in Encadreur N°9 | | No Comments » 

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