Encadreur N°8 – Penny Farthing ペニー・ファージング、あるいはオーディナリーと呼ばれた自転車について

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ぼくたちにとって自転車というと、同じ大きさの車輪がふたつと後輪についたチェーンのタイプのものが一般的。
でも、いまからざっと100年以上昔、19世紀ではペニー・ファージングという前輪の大きなタイプの自転車が流行ったことがあったらしい。それはレトロな雑誌なんかに出てきそうなオールド・ファッションドな自転車で、現代的な見地から見ると、どこかありえないような(自転車の進化における過程の一形態のような)例えるなら自転車界のシーラカンスみたいな乗りにくそうな自転車。実際、この自転車は乗りにくかったらしい。高い位置にあるサドルのせいで乗り降りだけでも大変だったし、その形状からブレーキはつけられなかったそうだし、低速ではバランスが取りにくかったらしい。おまけにちょっとでも転んだものなら周囲のものを巻き込んでの大惨事になりかねない代物だった。もちろん、この自転車にだってよい部分がなかったわけではない。どんなものにも何らかのよい点があるもので、この自転車のよいところはそのスピードだった。チェーンのない、ペダルと車輪が一体化した(よく考えてみるとチェーンのついた自転車が当たり前だとぼくたちは思い込んでいる)かたちはとても合理的で、高速化という点においてはあらゆる無駄を省いた完璧なかたちだったそうだ。そして、そのスピード故にレースもよく行われた。もちろん、ただ速いという以外何の取り柄もないはた迷惑なこの自転車が広まることは当然なくて、いまではある意味おとぎ話的な存在になってしまったのも無理はないと思う。だって、どうみたって曲芸師が乗り回すような自転車にしか見えないのだから。もし街のなかでだれもがこの自転車を乗り回す日がやってきたら、ぼくはきっと自らの目を疑うと思う。

ただ自転車としての立ち位置は失ったけれど、このペニー・ファージングという自転車はその唯一無二なデザインのおかげで人々の記憶に強く留まることになった。だから、いまでも古い自転車をイメージするとき、この前輪が不釣り合いに肥大化した自転車のことをぼくたちは頭に思い浮かべることになる。それは自転車の近代化におけるひとつのマイルストーンみたいなもので、この21世紀の世の中でも古いよき時代を思い起こさせるものとして、さまざまなグッズとなり現代にも生きながらえている。ぼくも古い自転車というと博物館でレプリカを見たことしかないのに、金魚で例えるなら出目金といってもいいこの自転車のシルエットを思い浮かべるし、このなんともいえないデザインに不思議なかわいらしさを感じるのである。

さて今回はそんな古の時代の自転車ペニー・ファージングをモティーフにしたドキュモンを額装してみることにする。使うのは黒いバックグラウンドがモダンな印象を与えるポストカードと紙製の立体模型。まずは模型の方を組み立てるところからはじめてみる。この模型はプラモデルみたいな要領で細かいパーツをひとつひとつ丁寧に組み合わせていくもので、出来上がると前輪が大きなペニー・ファージングの自転車の何分の一かの模型になる。作った印象としては紙製だけど、造りがずいぶんとしっかりとしていて(パーツひとつひとつに強度があり信じられないくらい硬い)、表面の質感も錆びた鉄みたいな感じで出来上がったときのアンティークな佇まいに驚きさえ感じる。手のひらに乗るくらいの小ぶりなサイズでとても軽いものだけれど、重厚な金属製の模型と遜色がないくらいに見えるのである。

模型ができたら今度は額装作りに取りかかる。今回は模型とポストカードという2種類のドキュモンをひとつの額装のなかにいれるため、2つのパーツに分けて作っていくことにした。まずポストカードは45°のビゾー・クラシックの技法でシンプルに仕上げ、模型の方はビゾー・ドロア(90°/垂直)のテクニックで、箱状の空間を作って、そのなかに収めるかたちをとる。ふたつのパーツを作り終えたら、黒色の紙を貼ったパッスパルトゥと裏板でふたつを挟んで仕上げていった。

今回作成したペニー・ファージングの額装はシンプルでモダンな感じに仕上がったと思う。ペニー・ファージングという自転車がとてもクラシックな存在だから、反対にこんな風にモダンでシックな感じに仕上げてみると、印象がぐっと変わっておもしろいと思った。出来上がった作品を本棚の一角に飾って、遠い昔ひとびとが速さのロマンを求めて生み出したペニー・ファージングという自転車にちょっとだけ思いを馳せてみるというのもなかなかに風情があっていいんじゃないかなと思ってみたりした。

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和歌山のエアロベースの自転車模型キットで、ペニー・ファージング(オーディナリーともいう)の19世紀の自転車を作っていきます。

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模型の部品はこの一枚の紙のシートのなかにすべて収まっています。ボンドとカッターと細かい部分の作業のためのピンセットを用意。

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カッターを使ってパーツをシートから切りはなしていきます。プラモデルを作っているようななつかしい感じがします。

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徐々に完成系が見えてきました。紙製ですが、ひとつひとつのパーツがすごくしっかりとしていて、プリントの感じもアンティークな色合いが出て本物みたいに見えます。

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これで完成!といってもここで終わるわけではなくやっとドキュモンができたので、今度は本題の額装に取り掛かっていきます。

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45°でカットして、ビゾー・クラシックのビゾーを作っていきます。2つのドキュモン(カードと模型)があるため、額装もそれぞれのパーツにわけて作っていくとわかりやすいです。

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ビゾーに色紙を貼っていきます。色紙はカードに描かれている自転車の色を参考にしてうすいグレーの色を選んでみました。

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ビゾー・クラシックの左側に自転車の模型を入れるための空間を作っていきます。この空間部分はスチレンボードを重ねて作りました。

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裏板を作ってスーヴェール・ア・オングレの技法で作品を包んだら完成!模型とポストカードのふたつのドキュモンをひとつの額装のなかに収めた作品ができあがりました。

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2016年03月18日 | Posted in Encadreur N°8 | | No Comments » 

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