Encadreur N°6 – alice in wonderland_不思議の国のアリス

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「チェシャネコっていつでもわらってるなんて、知りませんでした。ほんと、ネコがわらえるなんて思わなかったもの」
「わらえますよ、みんな。たいていどのネコだって」
ルイス・キャロル『不思議の国のアリス』(矢川 澄子訳)

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アリス・リデルがウサギを追いかけて穴に落ちてしまうことからはじまるルイス・キャロルの名作『不思議の国のアリス』。ジョン・テニエルの描いた挿絵がとても有名です。今回の本題とはちょっとはずれますが、個人的なキャロルの『不思議の国のアリス』の体験について触れてみたいと思います。

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高校時代に話が遡るのですが、当時僕はフランスのパリにいて、いわゆるインターナショナルスクールというところに通っていました。高校時代の僕はお世辞にいっても出来の良い生徒ではなく、一日中カセットウォークマンで音楽ばかり聴いてはノートに落書きばかりしているいわゆる変わった生徒でした。授業中先生の話をろくすっぽ聞かず、寝てもさめても音楽のことばかり考えていた記憶があります。ある意味幸せな時代といってもいいかもしれません。

とはいえ人生というものは楽なことばかりで構成されているわけではありません。このパリの学校の授業は基本的に英語で行われるのですが、外国語としてフランス語と日本語のクラスがあり、なかでも日本語のクラスは毎週レポートを提出しなくてはならない生徒にとっても(いまならよくわかるのですが先生にとっても)大変な授業でした。英語やフランス語といった外国のことばを覚えるにはまず母語である日本語できちんとものを考えることができなくてはならないという教育方針があったからだと思うのですが、とにかく毎週のように本を読み、レポートを提出するという、それはちょっと過酷なものでした。いまでも時々原稿用紙のマス目をとにかく埋め尽くしていた日々のことを思い出すことがあります。そうした日々提出しなくてはならないレポート以外にも、もう少し大掛かりな課題として年に一度長文の論文(これもまたレポート!)を書かなくてはなりませんでした。それも自分で選んだ本を読んで、自分なりのテーマで論じるというなかなかに高度なもの。当時はインターネットもウィキペディアもGoogle検索もなかったので、高校生とはいえけっこうきついものでした。

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そんなある年のレポートの課題として取り組んだのがルイス・キャロルの『不思議の国のアリス』でした。いまでもうっすら記憶していますが『アリス』と安部公房の『壁』を比較するという大人になったいま考えてもよくわからないテーマを選んで長文のレポートを書いたのです。おそらくその理由は大したことのないもので、『アリス』を選んだのはそれが児童書でディズニーのアニメにもなっている本だから簡単に読めるだろうという目算があったこと。そしてもう一方の『壁』は課題図書ですでに読み終えていたためあえて読み直す必要がなかったからでした。つまりは、はっきりと手を抜こうという魂胆があったというわけです。それに加えて、『アリス』には挿絵があるから作品の中身をイメージしやすいだろうという甘い考えもありました。

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でも論文のためとはいえ実際に『アリス』を読み進めていくうちに、僕はしだいにキャロルの描いた物語に引き込まれていきました。チェシャ猫やらトランプの兵隊やらといった魅惑的な脇役もさることながら、作品が少年少女向けとは思えないほどの複雑な構造を持っていたからです。キャロルがおもしろおかしくでっちあげていく物語のひとつひとつもすばらしかったのはいうまでもありません。そして合間に物語を盛り上げるテニエルの絵もすばらしかった。たしか僕は文庫本のテニエルの挿絵のひとつをパリのスーパーマーケットにある使い方もよくわからないようなコピー機で苦労して拡大コピーして、レポートの表紙を作ったことを憶えています。たいした中身もない論文に一丁前にデザインした表紙をつけて、ちょっとした価値のある作品みたいに仕上げてみたのです。レポートの方はといえばたしか半日くらいでやっつけ仕事みたいに書き上げたものでしたが(当時の僕は文章を書くより音楽を聴く時間を1分でも多く必要としていたのです)まずまずの点をもらえました。半分以上はテニエルの挿絵を使ってデザインした表紙のおかげで。いま思えば、あの『アリス』のレポートの装丁みたいなものが、僕が何かをデザインする始まりだったといえるかもしれません。

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長くなってしまいましたが、今回は本がテーマということで、個人的な原点に帰って『不思議の国のアリス』のジョン・テニエルの挿絵を3つの作品として額装してみました。キャロルの生み出したアリスの世界にはこれ以外にも多くの魅惑的なモティーフが出てきます。体を小さくしてしまう飲み物が入った瓶(drink me!)だったり、うさぎを追って落ちる穴だったり、トランプの兵隊たちにお茶会というのもあります。

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こうしたそれとわかるモティーフの数々は額装作品を作る際に、きっと手助けをしてくれるはずです。もしアリスをテーマに作品を作ることがあったら、ぜひルイス・キャロルの書いた『不思議の国のアリス』を手にとって、アリスの世界を深く知ってみてください。


2015年09月11日 | Posted in Encadreur N°6 | | No Comments » 

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