Encadreur N°5 – avant//apres ナタリー・レテのカードを額装する。

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学生時代の話だけど、ある年同じ学年にふっと煙みたいに姿を消してしまう女の子が転校してきたことがあった。朝のホームルームのときはみんなと一緒にいたはずなのに、授業が始まるベルを合図にどこかへ消えてしまうみたいな不思議な子。彼女はなんだか気が向いたときだけクラスを受講する特権があるみたいに、姿を見せたり見せなかったりした。

そんな転校生がやってくると、なんだか不安になるものだ。私たちは彼女のことをよくわからない子ね、と言い合った。ただでさえ転校生という立場で目立つのに、そのうえ姿を見せたりみせなかったりとなると、うわさになってしまうのも仕方がない。でも、彼女の方はといえばそんな周囲のことなどおかまいなしという感じで、毎日モグラ叩きマシーンの憎らしいモグラみたいに構内のあちこちに姿を見せたりいなくなったりした。まさに神出鬼没って感じで。ある日、ふと気づくと隣の席にいて熱心にノートを取っている彼女の姿を私たちは目にした。またあるときは何日ものあいだ姿を見ないこともあった。彼女が姿を消しているあいだ、彼女がどこで何をしているのか知っている人は一人もいなかった。それは純然たる彼女の秘密。そのうちにだれかが、まるでネコみたいな子、といった。たしかにネコというたとえは彼女にぴったりな気がした。だからネコみたいというのがそのまま私たちが彼女に貼ったレッテルになった。

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そんなネコみたいな彼女の隠された秘密に少しだけ近づけたことがある。それはある暑い夏の午後のことで、私たちがいつも溜まり場にしていた公園に行くと、そこに先客として彼女の姿があった。小柄な彼女は白いワンピースを着て、華奢な両腕には不釣り合いな感じの数のブランドものの紙袋を抱えて立っていた。「新しい靴を買ったの」と私たちの視線に気づいた彼女がいった。そういえばみんな納得してくれるというふうに。容赦なく暑い日差しのせいかあるいは両腕の紙袋のせいかはわからないけれど、そのときの彼女はいくぶん疲れて小さくなってしまったように見えた。まるで姿を消した代償に大切な何かを失ったみたいに。私たちが何もいわないでいると、彼女は小さく首をうなだれ、それから私たちのひとりに声をかけて煙草の火をつけてもらい、その場で一服した。私たちにはいろいろと聞きたいことがあったのだけれど、声が出ないうちに彼女はその場から遠ざかってしまった。そしてまたどこか私たちの知らない世界へと永遠に消えてしまった。それがあとにも先にも彼女の秘密のようなものに近づくことができた唯一の機会で、というのもしばらくして彼女はどこか別の学校へと転校してしまったから。

時がたってナタリー・レテの描いたネコのイラストのカードを目にしたとき、私はなんとなくその子のことを思い出した。ふっと姿を消したかと思うと、ブランド街でショッピングをたのしんでいる女の子。きっと彼女もこのイラストみたいなネコに姿を変えて、パリのサン・トノレ通りのような高級ブティック街を歩いていたんだろう。いつも両手に抱えきれないほどの紙袋を提げて。不思議と私はそんな見たことのない景色を頭のなかでわりと鮮明に描くことができた。

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それで私は当時のそんなネコのような子の想い出に運命みたいなものを感じて、ナタリー・レテのカードを額装した。白い紙袋をフレームに見立てて作品を作り、完成した作品は本棚のとなりの空いたスペースに飾った。以来、時々私はその作品の前で時間をつぶし、両手に持ちきれないほどの紙袋を提げてブランド街をそぞろ歩く日がいつか自分にもやってくるんじゃないかと夢を見るようになったのでした。


2015年07月09日 | Posted in Encadreur N°5 | タグ: , , No Comments » 

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