Encadreur N°10 – gebak en taarten ケーキとタルト

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朝方、コーヒーショップで腰を下ろしぼんやり窓の外を眺めていると、向かいのパティスリーに小さな子供たちがふたり手を取り合いながらウィンドウ越しに店内を覗き込んでいる姿が目に入った。おそらくきょうだいで、少しだけ背の高い年上と思われるお兄さんは赤い野球帽を被っていて、黄色いワンピースを着た妹の手をしっかりと握っていた。ふたりともちょっとだけ背伸びをし て一ミリでも店のなかのケーキに顔を近づけようと必死だった。遠目には赤色と黄色の小さな光が店の軒先に周囲から浮かび上がるように輝いているようにも見えた。

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ふたりの親がどこにいるのかわからなかったけれど(パティスリーの店内にいるようでもなかった)、しばらく戻ってくる感じではなかったので、ふたりを眺めている機会を得た。ふたりは私にグリム童話に出てくる『ヘンゼルとグレーテル』を思わせた。悪い継母によって森の奥深くに置き去りにされた子供たち。賢いお兄さんのヘンゼルと勇気のある妹グレーテル。そんなふたりが森のなかで道に迷った末にお菓子でできた家に辿りつくというあの話。私は子供のころにその絵本を読んでずいぶんと不思議に思ったものだった。お菓子で作られた家? 砂糖でベトベトしていて気持ち悪いんじゃないかな、それに森のなかにぽつんとそんな家があったとしたら、それはずいぶんと汚いものなんじゃないかな、と。童話に 出てくるお菓子の家はぴかぴかに磨かれたガラスケースのなかに入っているわけではない。なんで賢いヘンゼルがそんなことに気づかなかったんだろう、そんなあやしげな家にホイホイと近づいてしまうなんて、この子供たちはちょっとオツムが弱いんじゃないかなと真剣に悩んだのだ。

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いま思い返せば童話の世界にリアリズムを求めるのはちょっと大人気ない気もしないでもないなとか思ったりしながら、私はまた子供たちに目を向けた。とにかく子供たちというものはガラスケースのなかで宝石のように輝くケーキが好きなのだ。ホイップクリームとイチゴで作られた円形のお城に心を奪われるものなのだ。私だって甘いものには目がない。一度でいいから両手に抱えきれないほどのケーキを味わいたいと思うこともある。

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その後しばらくしてふたりの姿は街のなかに消えてしまってわからなかったけれど、私はそのときのことをテーマにオランダのケーキのカードを額装してみることにした。両手いっぱいにお菓子を抱える姿をイメージして。作品はビゾー・ドロアという垂直のビゾーを作る技法をアレンジして、ケーキのホールの形をイメージして額装してみた。消しゴムのイチゴをのせて、クリーム状の粘土を使ってホイップクリームをデコレーションしていく。額装というよりパティシエになった気 分。できた作品のタイトルは「gebak en taarten」。オランダ語でケーキとタルトの意味。完成した作品を眺めながら、今度あの子供たちのいたパティスリーに行ってみようと思った。

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2016年10月07日 | Posted in Encadreur N°10 | | No Comments » 

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