Encadreur N°10 – Confiture コンフィチュール

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何年か前のことですが、パリの街に一ヶ月ほど滞在したことがありました。それは欧州をめぐるとても長い旅行の最後の部分で、パリの街にたどり着いたときにはずいぶんと旅の疲れがたまっていました。そのせいだと思うのですが、好奇心に満ち足りた最初の数日が過ぎると、そこが世界中の人々が羨むパリの街だとわかっていても、わたしはうんざりしてしまいました。一日の行動パターンがルーティン化されて、旅行者というよりはその街で生活している人々のように街に退屈してしまったのです。

そんなわたしにとって、唯一のたのしみだったのはホテルの朝食のビュッフェに出てくるコンフィチュール(フランス語でジャムの意)でした。パリまで赴いて、朝食のジャムだけがたのしみだなんて笑われてしまうかもしれません。でも、その小さなホテルで出される焼きたてのクロワッサンとボンヌ・ママン(bonne maman)のミニチュアサイズのジャムを選ぶことが、旅に疲れたわたしにとって小さな幸せみたいなものに思えたのでした。

たぶん、それはミニチュアサイズとはいえジャムの瓶をひとりじめすることができたことにあったのかもしれません。というのも子供時代のわたしの家庭ではジャムの瓶は家族みんなでわけあうもので、スプーンで大量のジャムをすくってべったりと食パンに塗りつけて食べることなんて絶対にできないことだったから。そうでなくても子供時代のわたしは甘いものばかり食べてと怒られてばかりでした。子供のころ大好きなジャムを好きなだけつけて食べた経験なんてほとんどなかったですし、いつも同じマーマレードジャムの味に飽きたからといって、文句をいうこともできなかったのです。

わたしはジャムの味を自由に選べることにちょっとした贅沢を感じました。ある日はフレーズ(イチゴ)を選んで、次の日はフランボワーズ(ラズベリー)を選ぶ。いやならアプリコットだってマロン(栗)だって選び放題です。いい気分になったわたしは毎朝それだけをたのしみにするようにベッドから抜け出して、焼きたてのクロワッサンとジャムを一瓶、それからオレンジジュースと熱いエスプレッソを席まで運んで遅い朝食をたのしみながら旅の最後の日々を過ごしました。いまでもあの日々の朝のジャムの蓋をまわしたときに聴こえるパカッという空気の抜ける音のことをよく憶えています。それはあの日のわたしにとってしあわせと同じ音だったのです。

先日、輸入食材を扱っているお店に立ち寄ったときあのときと同じボンヌ・ママンのミニチュアサイズのジャムの瓶を見つけたわたしは、すっかりなつかしい気持ちになって、その小さな瓶を3つ購入して帰宅しました。家に帰ったわたしはあの日々の記憶を記念するみたいにそれらの瓶を額装することにしました。ドキュモンにはクロワッサンのカードを選んで。

完成した作品はほかの旅の思い出といっしょに本棚に飾ることにしました。不思議なことですが、この小さなジャムの瓶を見るといまではもうあまり細部を記憶していないあの欧州の旅行のことをうっすらと思い出すことができるようになりました。そう、あの旅の終わりの日々に小さなホテルのビュッフェで味わった満ち足りた朝食の時間を。

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ボンヌ・ママンのミニサイズのジャムの瓶。左から順にイチゴ、マーマレード、ブルーベリーの中身を取り出して、きれいに洗ったものです。

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ジャムをそのままいれておくわけにはいかないので、フェイクのジャムを作っていきます。今回はエポキシボンドに色を混ぜて、瓶の内側に塗ってみました。

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イチゴジャム風のエポキシボンドを塗ったらこんな感じになりました。続いてマーマレードとブルーベリー風に色付けしたボンドも塗っていきます。

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3つのミニチュア・ジャムの瓶とクロワッサンの写真をダイカットしたカードをドキュモンにして額装をしていきます。

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ビゾー・ドロアの技法でボックスを作り、カードとジャムの瓶を並べていきます。一番上のパッスパルトゥにはポップな感じのストライプの色紙を選んでみました。

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仕上げをして、ガラスに白のポスカで文字を書いたら完成! スチレンボードを重ねて高さを出すことで、瓶のような立体的なものも額装することができます。


2016年09月16日 | Posted in Encadreur N°10 | | No Comments » 

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