book, book, book, book, – サリンジャーの短編集「ナイン・ストーリーズ」

DSC03699

今月は5年ほど前に亡くなったサリンジャーの短編集「ナイン・ストーリーズ」を再読していました。
サリンジャーの作品にはときどき読み返したくなる魔法のような力があるような気がします。

サリンジャーの作品にはじめて触れたのは高校の頃。
読んだ本はもちろん「キャッチャー・イン・ザ・ライ」。
まあ誰しもが通る道みたいな感じですよね。

とはいえ当時は主人公のホールデン・コールフィールド少年と同じようにひねくれていたので、
読まなきゃいけない的な本を読むなんてカッコ悪いみたいな先入観があって、
読んだことは読んだけど、あんまりおもしろく読めなかった気がします。

ちゃんと読み直したのは大学のころだったと思います。
アメリカの作家の作品を系統立てて読んでいこうとしていたなかで、
当然のようにサリンジャーも出てきて、前述した「キャッチャー〜」を再読したり、
名作「フラニーとズーイ」などと一緒に「ナイン・ストーリーズ」も読みました。
で一番自分のなかでしっくりときたのがこの「ナイン・ストーリーズ」でした。

タイトルの通り9つの短編で構成されているわけですが、この短編ひとつひとつが独特の世界感をもっていて、
それでいてぴったり9つがジグソーパズルのように整然と収まっている感じが当時好きだったポイントだと思います。

(余談ですが、ガルシア=マルケスが、短編を作るのも長編を作るのもその作品のための世界をひとつ作らなくてはならないという意味ではかかる労力は同じくらいみたいなことをどこかで書いていたと思いますが、この短編集のひとつひとつの作品を読んでいるとその空気感みたいなものの延長線上にひとつひとつの世界みたいなものがくっきり浮かんできて、短編を作るのって大変なんだなとつくづく思ったのをよく覚えています。音楽で例えるなら、CDアルバムに入っているひとつひとつの曲が全部シングルカットできるくらい質が高いみたいな感じといえばわかってもらえるでしょうか。関係ないですが、額装でも小さい作品を作るのも大きな作品を作るのも、労力自体はたいしてかわらない気がするので、ひとつの世界なり作品なりをこしらえるのはどの分野でも同じだけの労力が必要なのかな、とも思います)

で、実は今回再読した「ナイン・ストーリーズ」はこれで3冊目だったりします。

最初はたぶん野崎孝さん訳で白地にドット柄の表紙の文庫本で、
数年前にこの文庫本の前身となるハード・カバー版の柴田元幸さん訳のを買い直し、
久々に読み直したくなって探したら両方手元からなくなっていたので、文庫版を買い直したから。
(実際には図書館で借りて読んだりしているので、回数はもっと読んでいます)

そして毎回買いなおすたびに作品のなかのとあるシーンが頭に思い浮かんできます。
僕にとっては「ナイン・ストーリーズ」といえばこのシーンという感じで。

それは「笑い男」という短編のなかのワン・シーンなんですが、ニューヨークの野球少年たちがバスで移動するとき、お話をしてくれるチーフの近くの席を我先にと取り合いをするという場面です。あまり物語の筋とは関係がないのですが、そうしたちょっとした日常のシーンの描写がとてもすばらしいので、わんぱくな子供たちがバスのなかで言い争うような声が聞こえてくる気がします。

DSC03700

「ナイン・ストーリーズ」の作品はどれもすてきですが、やはり物語的にいちばん印象に残るのはラストを飾る「テディ」です。

ネタバレになるので書きませんが、個人的にサリンジャーの小説を読むと、大人びて達観の境地に立っている主人公と、それが理解できなくて一般論を振り回す周囲の人々の相違みたいなものが鮮明に描かれているなあといつも思います。普通の小説だと大人びた少年が主人公だったらその少年の視点やその少年を見守る第三者の視点で物語を膨らませていくことが多いですが、サリンジャーは一歩引いて冷めた子供とそんな子供をなんとかコントロールしようとする大人の噛み合わなさみたいなものを描こうとしている気がします。ちょっと系統がちがいますが、そういう乾いた視点はカフカの作品に通じるところがあるんじゃないかなと個人的には考えたりします。

また数年後に読み直すときまでこの文庫本をなくさないでいれたらいいなというところで、
今回の読書紹介を終えたいと思います。


2015年06月29日 | Posted in Book | タグ: , No Comments » 

関連記事