avant // apres – 自転車のグリーティングカード

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枚のグリーティング・カードがどのようにして玄関に飾られることになったのか


グリーティング・カードを集めることが好き。
といってもコレクターというほどの蒐集家ではないし、greetingという言葉がもつ本来の意味のように親しい人に挨拶代わりに送る使い方をするわけでもない。
というよりだれかにグリーティング・カードを送ったことなんてこれまでの人生で一度もない。
だけど美しいカードを見つけてしまうと、どうしても欲しいという気持ちを抑えられなくなってしまう。
お菓子の匂いに引き寄せられるヘンゼルとグレーテルみたいに、所有欲が体のなかにまるでおもしか何かのように居座ってしまい、熱を帯びる。ひとたびそうなると、欲望を振り払うことはとてもむずかしい。

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いま私の目の前にあるイギリス製のグリーティング・カードも、そんな私の衝動買いによってこの場所に運ばれてきたひとつである。
数ヶ月前のある日のこと、私はいつも訪れる雑貨屋でこの活版印刷がすてきな自転車乗りのカードを見つけた。置いてあったのは、たしかいつもの回転式のポストカード・ラックではなくて、店の奥まったところにあるアンティーク調のチェストの上だったと思う。それは真鍮製のトレイの上にほかのグリーティング・カードとともに陳列されてあったのだけれど、私が見つけたときにはすでにいくつか売れた後で、カードの束のなかに自転車乗りの柄は一枚しか残っていなかった。
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数ヶ月前のあの日、最後の一枚だけがもつ抗しがたい魔力に負けて買ってしまったグリーティング・カードを私は手にとって眺める。当然のことだけど、だれかにグリーティングする予定はない。かといって机の抽出しの奥にしまってしまうのも、なんだかもったいない。このまま棚に飾るのがいいだろうか。でも、ポストカードの半分くらいの大きさのカードでは迫力にかけるし、なんだか味気ない気がする。それなら額装してはどうだろう。インチサイズの額を用意して、まわりに装飾を施すのだ。サイクリングに関係するカードだから小さな山脈のかたちにビゾーを作るのもいい。自転車乗りが口笛を吹きながら、軽快に山道を走り抜けていくイメージ。そういうのもわるくない。
作品が完成したら玄関の壁にそっとさりげなく飾ろうと思う。だれも気づいてはくれないかもしれないけれど、カードはいつだってやってくる来客にひそやかなグリーティングのまなざしを送るのだ。それはカードがグリーティングの本来の役割を果たすことになるんじゃないのかな、と私は思ってみたりするのです。
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